ほら穴の話

怪談の類。
今日のは本物。

さて、前回はやたら落としてしまったが、今回は本当の怪談をしよう。
もちろん実話である。
ただしこれは、私が経験した事ではなく、聞かされた事になる。

だが、がっかりしないでほしい。
事実であるのは保証をつける。
これは、私が育った村で起こった事件だから…。

起こったのは、私が生まれるわずか数年前だったらしい。
だから1980年前後の話になる。

事件の記憶は村にとって生々しく、私は小学生の頃、聞かされた。

それを語りたい。

実家の裏山が墓である・・・のは先の日記で書いた。
だが私の実家付近は本物の田舎で、裏山は一つだけじゃなかった。
裏山の奥はもう、延々と山しかなかった。



今でも、道は整備されていない。
わずかトラクターが通れる程に草が刈られている程度で、その道を反れるとすぐに深い山に入れる。
ただ近年、近くまでアスファルトの道が出来た。
この先、この深い山も開拓されるのか、それとも衰退する村と共に忘れ去られ今の姿を保ち続けるかは分からない。

その山には特徴があった。
一つは、クワガタの宝庫だった事。
子供の頃はよく入った。
時に蜂やムカデに襲われつつも…、毎日入っていた。

もう一つは、秋になるとキノコが生えること。

山に向かうと、まず道のほとりに池が見えてくる。
その池の外周に沿って、アミタケが密集して生えていた。
アミタケは食用だが、スポンジのような食感でネバネバしていた。
正直、私はその味は好きじゃなかった。



池を過ぎ、そのまま数百メートルも行くと、道を知るものにしか分からないだろう山への入り口がある。
そこから山に入ると、キノコが生えている。
種類はマツタケだった。

そう、山はマツタケ山だった。
もちろん、そんな宝の山を村は手放しで開放していたわけではない。
秋が近づくと、山をブロック毎に仕切り、村の寄り合いで入札が行われる。
その年、落札したブロックは、落札者一家の権利となり、もちろんマツタケも採れる。
ただ自然はきまぐれで、どのブロックに生えるかは確実な予想が出来なかった。
だからある種のギャンブル性に満ちていた。
それでも、村の者にとって、秋は貴重な臨時収入が入る時期だった。



ただ、いい事ばかりではなかった。
そこが、そんな宝の山である事はよく知られていた。

密猟者が居た。
私たちはマツタケ泥棒と呼んでいた。

村の人たちは、落札したブロックの境界を守っていた。
まぁ、それはそうだろう…。
万一バレたら、狭い村で白い目で見られ、暮らせなくなる。
密猟者は、どこからか山の事を嗅ぎ付けて、遠くからやってくるクズどもだった。


彼らは真夜中にやって来ていた。
夜中、山の方で黄色っぽい光が動いていると、「あれは懐中電灯の光………、マツタケ泥棒だ」と説明された。

かといって、夜中に山狩りをするわけにもいかなかった。
逆上した密猟者に殺されかねない…。

ところで、夜中に密猟者はやってくる。
そしてマツタケを探す。
暗闇の中、どのようにマツタケを探すかお分かりになるだろうか?

懐中電灯で照らし、くまなく探すという答えはナンセンスである。
経験者なら分かるが、広大な山の中でマツタケが生えている場所などわずか。
しかもマツタケの色は木の色に似る。
昼間でも探すのは至難なのに…、夜など。

また匂いでもない。
いくらマツタケに独特の香りがあるとはいえ、山の中で正確にその場所を探れる者は、もはや人間の鼻ではない。

夜は裏技があった。

キノコは言うまでもなく菌類で、その傘の内側に胞子を有する。
つぼみは胞子を全て内側に抱えるが、傘が開くと放出する。
そして胞子は、暗闇で光る。
慣れないと分からない程度ではあるが、薄く青くぼんやりと光る。

つまり…、懐中電灯を手に山まで行き、そして懐中電灯を消す。
そして目を凝らし、ぼんやりと青に光っているものの方へ行けば、マツタケがある。

ちなみに、マツタケは大抵、一本生えていると近距離にもう2、3本生えている事が多い。
まぁ、このようにして密猟者はマツタケを得ている。

さて、ここからが問題の話になる。

私が生まれる数年前の事だったらしい。
もちろん、当時も密猟者は居た。
密猟者は、己の行為が捕まらないものと確信すれば、どんどん大胆になる。

山で懐中電灯の光を見る日は多くなっていた。
それは密猟が組織化し、複数人によって犯行が行われている事を意味した。
いよいよ、村は唇をかみしめていた。



だがある日、密猟者の中の一人が捕まる事件があった。

それは夜中に山狩りをしたわけではなく、昼間、村の者…、正当な山の権利者がマツタケを採りに行くと、うずくまって動けなくなっている密猟者を発見したらしい。
そして密猟者は捕まった。
警察より先に病院に行ったようだが…。

うずくまって動けなくなっている…、というのは脚を怪我していた。

山は何かと危険なものがある。
岩とか、倒れた木とか…。
夜間に、つまずいて転倒する事など容易に想像できた。
だが、そうじゃないと思える場所で密猟者は倒れていた。

倒れていた場所は、山のほら穴の中だった。

ほら穴について解説しよう。
その穴は、人為的に掘られた穴だった。
そこ以外にも、山の至る場所に掘られていた。

何故か。
それは太平洋戦争に関係する。

当時、村に程近い位置に海軍の飛行場があった。
1700mもの大滑走路を持つ高速機や大型機にも対応した飛行場で、当時の日本海軍最高の戦闘機「紫電」なども配備されていた。
幸いな事に、そこが爆撃対象になる事は無かった。
だが、戦闘機による機銃掃射などはあったらしい。



少し余談になるが、戦後、飛行場は近隣の住民によって破壊され、畑になった。
というか、もともと畑だった場所が戦争のために飛行場になり、敗戦で畑に戻ったのだった。
私の父親は子供の頃にそこで飛行機の防弾ガラスの破片を拾った事があるらしい。
曰く、「甘い匂いがした」との事。

さて、ともかく飛行場があった。
そこに最新鋭機が配備されていた。
だから戦争最末期、「そろそろここも爆撃されるぞ」と噂されていた。

近隣の神戸や大阪は大空襲でやられた。
次は舞鶴港かここだ…。
一帯に暗い影が立ちこめ、すぐさま山に多数の防空壕が作られる事になった。

若い男は戦争にかりだされている。
だが突貫で山は掘られた。
ろくな経験も指揮者も居ないまま、とにかく多数の穴が掘られた。

普通、防空壕といえば、穴は穴だが木の柱や板で補強されているのが普通である。
だがそんな余裕も無かったのだろう。
単に穴を掘っただけのそれは、防空壕というよりほら穴だった。
ただ、当時の「明日にも爆撃されるかもしれない…」という状況では、いたしかたないと思う。

とにかく突貫で掘られた穴だったが、それゆえに掘る際の事故も起こっているらしい。
それは、一番奥を掘っている際、穴が崩れて生き埋めになった例など…。
ただ、それすら構っておられず、崩れたら再び掘り、犠牲者は簡易な葬儀で済ませ、先を急いだ。

結局、爆撃は無いまま終戦を迎えた。
ほら穴はそのままにされ…、というより忘れ去られ、時は流れた。

幾つかのほら穴には行った事がある。
たしか小学4年生の頃だったか5年生の頃だったか…、防空壕の探検として4箇所ほど行った。
例の友人と共に。
うち3つは非常に綺麗な状態で現存していた。
更にそのうちの1つには、今から思うと勇気があったなと思うが…、中にも入った。
50mほども奥に続いており、その先には怖くて行けなかったが、細くなりつつもまだ続いていた。


さて、密猟者が倒れていたほら穴は、そんな場所だった。
怪我をした原因までは聞いていない。
落石にあったのか、つまずいて転んだのか…。

だが不思議なのはここからだ。

分からない事が一つある。
それを考える為に、今までの所を整理しよう。

密猟者は夜中、山に入る。
そして山で懐中電灯を消し、青く薄く光る光に向けて歩き、そこにあるマツタケを採る。
そんなある日、密猟者はほら穴の奥で倒れていた。
ほら穴は、太平洋戦争の終結直前に突貫で掘られた防空壕である。掘る時、あまりにも急いだ為、いたましい犠牲者も出ている。


分からないのは、何故、密猟者がほら穴に入ったか、という事だ。

ほら穴は掘ってあるから、当然、その地面には植物は生えていない。
あるのは極少量のコケ位だ。

もう一度、要点のみを書く。

ほら穴の奥にマツタケは絶対に生えていない。
にも関わらず、密猟者はほら穴の中に入っていた。

密猟者は青く光る光を探し、そこへ向かう。
向かった先が、いたましい犠牲者が出ているほら穴だったという事は………?

いったい何故、密猟者はほら穴に入ったのだろう…。
ほら穴の奥で、いったい何が光っていたというのだろう…。
それが分からないのだ。

小学生だった当時、聞かされた話である。


以来、何年かは、密猟は無くなったらしい。
だが数年もすれば、再び密猟者はやってきた。
おそらく、別の人だろうが…。

だが、今はもう来ていない。
何故なら…、マツタケは、管理された松林でしか生えない。
戦後の高度成長以来、村は松林を管理しなくなり、徐々にそこはマツタケの生えにくい山になった。
今はもう、ほとんど生えない。
だからいつからか、密猟者も来なくなった。

ほら穴も風化し、次々崩れ、その痕跡すらなくなった。

私が生まれる数年前、密猟者が捕まったほら穴も、今はもう無い。
ほら穴の奥で密猟者を誘ったものは何なのか。その主が居たのなら、今はどうしているのか。
それはもう誰にも分からないと思う。

ただ、願わくば、無事天に召された事を私は願いたい。

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