帝都防衛航空隊_8

これの続きです。

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前代未聞の潜水艦作戦が決定されてから9日後、準備が整い出発の運びとなった。
出発は新月の午後10時とされた。

作戦は、シンカーでシュトルヒとツインホーンの開発資料一式、及びシュトルヒの見本機を一機輸送するというものであった。
ウラニスク湾から帝国首都まで、単独で海上/海中ルートから輸送を行うというのはいかにも無茶苦茶なものであった。
途中の海の大半は共和国側が制海権を得ており、アクアドンやフロレシオスが厳重な哨戒を続けている。
哨戒機に見つかればたちまちにバリゲーターや、下手をすればウルトラザウルスが出現するものであった。
しかしそれでも、空輸するよりはわずかであるが可能性があった。

シュトルヒとツインホーンの開発資料一式はシンカーの後部格納庫に収める事が出来た。
しかしシュトルヒの見本機はさすがに無理で、専用のコンテナが作られその中に分解して収められ、シンカーが牽引する事になった。

シュトルヒのみ見本機を輸送する理由であるが、これは資料だけでは完成させられるかに不安が残ったからであった。
ツインホーンは帝国が古くより開発実績を積んだ低姿勢四速機械獣であるから、資料だけで製作できるだろう事が楽観できた。
しかし帝国初の超音速戦闘機シュトルヒともあれば、話が違った。
確かに資料さえあれば理論上は全く同じものが作れるはずではあるが、実際は見本機が一機ない事には製作出来ないだろうという判断は妥当なものであった。

輸送作戦のパイロットは私であった。
これは過去はシンカー潜水部隊に所属していた事と、シュトルヒ試験飛行に参加しており首都で飛行指導が出来るだろうからという選定であった。
首都の命運を担ぐ重圧はあったが、実を言うと少し高揚もしていた。
それはテストパイロットとしてシュトルヒの性能を熟知していたからであった。

この作戦に使用されるシンカーは当然であるが懐かしいノーマルタイプであり、アイアンコング部隊に随伴した作戦以来の搭乗であった。
今や飛行するには不便しか感じない機体であったが、こと水上/水中に関してであれば、フロレシオスを圧倒しバリゲーターとも互角以上という申し分ないものであり、十分な機体と言えた。
最も今回は重いコンテナを輸送するというものではあったが。

既にウラニスク湾の港には、コンテナを括り付けたシンカーが静かに揺られていた。
久々に海に浮かぶシンカーを見た懐かしさを噛み締めながら、私はコックピットへ座った。

この日ウラニスクを発つゾイドは私だけではなかった。
港から500mほどの位置には、小型輸送船とそれを中心に10機のシンカーが待機していた。
新月の暗闇であったが、わずかに船の灯火が周囲を浮かび上がらせていた。
この艦隊は、本作戦を行うにあたっての囮艦隊であった。

コンテナを牽引した私のシンカーは、ニカイドス島と中央大陸の境にあるマンクス海峡を抜け、広大なデルダロス海に出るコースを指定されていた。
それは最短コースであったが、同時に危険なルートでもあった。
デルダロス海に出れば、ある程度の安全性は期待できた。
だがその前のマンクス海峡は浅瀬であり、そこで襲撃される可能性が最も高いと思われた。
囮艦隊はマンクス海峡を回避、ニカイドス島の北側を大きく回るコースを取り、意図的に敵に発見されやすいような動きを取って敵の水上部隊主力を引き寄せるという、悲壮なる艦隊であった。

またもう一つ、シュトルヒ15からなる航空隊とツインホーン20からなる地上部隊もバレシアを目指して同時に進撃するという事であった。
バレシアはシュトルヒが空路でも何とか飛行できる距離であったし、ツインホーンは寒冷地に強い機体であったから、是が非でも送り届けたいものであった。
これらの部隊も成功の保証はどこにも無く、悲壮なる部隊であった。
もしバレシアにゾイドの生産工場があれば、単機のシュトルヒに設計図を載せて飛ばすだけで済んだであろうが、叶わぬ事であった。

首都とバレシアへゾイドを送り届ける作戦が同時に決行されるのは、新月という暗闇の日を利用したものであるが、それ以上に同時に行えばそれだけ共和国の戦力も分散し、どちらかだけでも成功する算が高くなるだろうというものであり、押し迫った戦況をいかにも物語るものであった。

午後10時ちょうど、港の管制塔から発進命令が下り、私はシンカーを発進させた。
久々の水上航行であったが、以前身に付けた操作はすぐに戻ってきた。
一度覚えれば忘れる事は無い、という新兵時代の上官の教えを思い出した。
ただシュトルヒの入ったコンテナは重く、シンカーの運動性を大幅に減じるものであり、これからの往路の困難さが現れている様であった。

発進してしばらくすると、囮艦隊に追いついた。
ところでこの囮艦隊はなかなかよく出来た艦隊であった。
その最大の特徴は輸送船で、無論これは共和国を欺くための主役である。
シンカー10機も護衛につけているのはいかにも重要品を輸送しているようで、これは必ず共和国が食いつくものであった。
しかも囮任務を可能な限り長時間行えるように、輸送船は特注品であった。
というのも艦の喫水線以下の貨物スペースに全て浮力材を詰め込み、即席の浮沈艦としていた。
これでは輸送も戦闘も行えぬ駄艦であったが、囮艦としては最適なものであった。

港からしばらくは、囮艦隊と共に進んだ。
艦隊速度の25ノットで進むと、港がぐんぐんと遠ざかってゆく。
新月で星がよく見えたのが非常に印象的であった。
無線封鎖中であったから波の外は何も聞こえず、帝国の命運を担う作戦にしては実に静かな始まりであった。

日付が変わった午前0時、艦隊は共和国の制海域に突入した。
暗闇で視認は出来ないが、南にはメトロゲージの大地が広がっている筈であった。
メトロゲージは野性ゾイドが豊富に生息する地域で、この地の野性体から生まれた帝国ゾイドも多い。
今この地を共和国が支配しているのが共和国だという事が、いかに危険かというものであった。

共和国制海域に入ってしばらく、囮艦隊が進路を北に向け、発光信号で航海の無事を祈ると伝えてきた。
私はそれに貴艦隊の武運長久を祈ると返した。
いよいよここからは別行動であった。

囮艦隊が北…、ニカイドス島を大きく回るコースに行くと同時に、私のシンカーを海に潜らせた。
囮艦隊はこの後、ある程度進んだ段階で適当な偽の通信を大量に送信するなどして敵に発見され、その目と戦力を一手にひき付ける。
その間に、この航海で最も危険なマンクス海峡を越える事が使命であった。

シンカーは潜水艦であるが、無論ずっと潜っているわけではない。
むしろ水上の方が速力を出せたし、何より酸素供給上の都合が良い。
潜水は隠密性と攻撃時の優位以外では意図的に行う必要が無いものであり、ここまでは水上航行を行ってきた。
だが囮艦隊の動きにあわせ、ここで初めて潜水を行った。

コンテナもろとも水中に潜り、そのまま着底する。
島の多い地域で、深い場所を探したが深度は100m程しか無かった。
そのまま全ての明かりを消し、シンカーのエンジンを切った。

もうすぐ囮艦隊が派手に動く筈であり、そうなれば共和国水上部隊がニカイドス島を北上する囮艦隊に向けて動く算であった。
それを海底でやり過ごした後に再び進む作戦であった。

シンカーの潜水可能時間は2時間程であったが、今回はコンテナに予備の酸素を搭載しており、潜行可能時間は10時間と長大なものであり、かなり余裕をもって考えられるものであった。
潜り始めて1時間ほどが経過し、海面があわただしくなる気配がした。
思惑通り、共和国水上兵力が囮艦隊に釣り上げられ、ニカイドス島の北へ向かって急行を開始したのであった。
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