帝都防衛航空隊_7

これの続きです。

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いまや広大な中央大陸の8割以上が共和国の支配域となっており、わずかに残った領土ももはやその運命は風船の灯火であった。

バレシアは寒冷地特有の嵐が絶えず吹き荒れ、その為サラマンダーの爆撃はほとんど受けずに済んでいた。
また万年雪の積もった大地はゾイドの行動を大幅に減じていた。
唯一、この地でも能力を落さずに行動できるのはサーベルタイガー、ヘルキャットの高機動部隊であった。
バレシアのサーベルタイガー部隊を率いるのは帝国高速部隊のエース、北海の虎の異名を持つダニー・ダンカン将軍であった。
頑として共和国の侵攻を跳ね返す不屈の勇士は、敵味方の双方でその名を高く轟かせていた。
しかしいまやバレシアへの補給ルートは絶たれ、偉大なエースも徐々にジリ貧になっていく事は明白であった。

帝国首都は周囲を険しい山に囲まれた天然の要塞であった。
従って地上部隊の侵攻はある程度抑える事は出来ていたが、既に爆撃は開始されていた。
皇帝直属の親衛隊精鋭部隊がシンカーで苦しい戦いを続け、体当たりをも辞さない必死の抵抗をし、かろうじで防いでいるのが現状であった。
その戦法ゆえ機材の消耗は激しく、徐々に戦闘ゾイドの不足が目立ち始め、早々に防ぎきれなくなるであろう事は明白であった。
しかも今やタイガーゲージの陥落により補給ルートも立たれた。
ただ首都ゆえにわずかであるがゾイド製造工場もあり、わずかずつの生産を進めているのが現状であった。
それでも明らかに消耗は生産を上回っており、しかもその解決は糸口すらつかめぬ状態であった。

それに比べるとウラニスクは比較的マシであった。
平原ゆえに地の利は無かったが、なにしろゾイドの生産拠点であったから戦闘ゾイドの不足に悩む事はなかった。
むしろ補給ルートが全て破綻した今、ゾイドは格納庫をどんどん埋め尽くし、いまや余っているほどであった。
またウラニスク防衛を担うのは、首都と同じく親衛隊の精鋭であった。
精鋭パイロットが数に任せた作戦で持ちこたえている状態であったが、人的な消耗が徐々に出ているのも事実であった。

いずれも状況の打破は難しく、その間にも苦しい戦闘は続けられていた。
最も苦しいのは帝国首都であったが、これは二つの理由によるものであった。
一つは既に防衛に事欠く程にゾイドが不足し始めた事であり、もう一つは帝国を率いるゼネバス皇帝が首都に居る事であった。

この状況を打開するわずかな可能性が議論され、その結論の鍵はシュトルヒであった。
シュトルヒを一刻も早く完成させ、その高性能でもって共和国の追撃を振り切りながら直接首都まで飛行し、同時に設計図面も送り届ける。
そうすれば首都でもシュトルヒの生産が可能となり、まとまった数さえ生産できれば首都の防空を固める事が出来、反撃の糸口になるだろうというものであった。

いよいよシュトルヒの開発完了予定工期表は大幅に繰り上げられ、試験飛行とその改修は猛烈な勢いで行われる事になった。
見つかった問題点の内、よほど大きなものを除いてはそのままでやむなしとされた。

例えばシュトルヒは高速機ゆえに失速速度が非常に高く、230km/h程度が境であった。
これはシンカーの失速速度より100km/h近くも早く、シンカーに慣れたパイロットにとっては非常に失速しやすい印象を持つ機体であった。
一度失速すれば機体を立て直すには一旦急降下する等して速度を稼ぐ必要があるが、空戦時に敵はそれを待ったりしない。
これをやらかすとたちまち撃墜されるのだから、失速に気をつけるのは空戦の基本であった。

また着陸速度も200km/h程度と、やはりシンカーより100km/h近く速いものであった。
そのうえシンカーは車輪式だったから着陸が容易であったが、シュトルヒは脚部による着陸を要求されるのだから輪をかけて着陸が難しかった。
私もテスト中に何度か失敗し機体を横転させ、この点の改良は切なるものであると思った。

どちらも、主翼のフラップを改良しより低速で飛行できるようにすれば解決する問題であった。
しかし言うは易しで実際はその改良が非常に難しく、長い期間が要される事は明白であった。
その為、これは飛行時に注意を徹底するという全てパイロット任せな無責任な方法を以って良しとされた。

このように様々な問題を抱えつつもシュトルヒの試験項目はクリアされていき、いよいよ完成が近づいてきた。
試験に要した期間はわずか一ヶ月であったが、これは平時の約1/10、戦時である事を考えても1/3ほどの短さであり、まさに最速の開発となった。
シュトルヒは確かに様々な問題を抱えており、通常なら実戦に耐えられない欠陥機・殺人機であった。
ウラニスク防衛隊のシンカー乗りはシュトルヒの試験飛行を経験する者も多かったから、ここウラニスクでの運用は比較的安心できるものがあった。
だが他での運用を思うと不安を隠せないというのが正直な所であった。

あと二ヶ月もあれば機体的に成熟し、初心者でも乗りやすい完成された機体になるであろう事が明白だっただけに、何よりも逼迫した戦況を悔やむものであった。
しかしまた操縦に熟練した者が乗ればプテラスと互角に戦える機体である事も確かであった。
この段階をもって、シュトルヒの量産は開始された。

切り札シュトルヒの製造ラインは直ちに確保された。
同時に、ザットン、ゲルダー、マルダーの三機種の製造ラインはここで終了した。
工場を拡張しない以上、新機種の製造ラインを確立する上で仕方の無い取捨であった。
この三機が選ばれた理由であるが、既に旧式化が叫ばれていたのと、優秀な後継機が誕生した為であった。
後継機とはツインホーンというマンモス型小型ゾイドであり、シュトルヒとほぼ同時期に試験を終え完成していた。
この機体は輸送力でザットン以上、また突撃力でゲルダー以上という優秀な機体であった。
またミサイルを豊富に積んでいたから砲撃力もマルダーと同程度と高く、しかもマルダーよりはるかに機動力が高かった。

ツインホーンは小型ながら重パワーを持つ陸戦ゾイドであり、その開発はレッドホーンやゲルダーの開発実績・運用データが惜しみなく使用されていた。
その為、高い能力を求めつつも保守的で無難な設計にまとめ上げる事が出来たのは、低姿勢4足ゾイド開発に伝統を持つ帝国ならではのものであった。
シュトルヒよりはるかに順調な開発期間を経て、試作機もこれといった問題を出す事が無かったという事であり、まことに羨ましいばかりであった。
ともかく、ここへきてシュトルヒと強力な陸戦力ツインホーンの製造ラインが確保され、いよいよ量産されようとしていた。

またこれにより、直ちにシュトルヒをバレシアと帝国首都へ空輸する計画も進められた。
操縦系統に関する問題は不安であったが、バレシアも首都も一騎当千の強者の揃いであったから、それに賭けてみるのは決して分の悪い賭けではないと思う他無かった。
しかしまたしても問題は浮上し、それは航続距離に関するものであった。

シュトルヒの航続距離は迎撃には問題ないものではあったが、この作戦とあらば話は違ってくる。
すなわち当然であるが、今回はバレシア、首都とはるか遠距離を飛ばねばならぬものであった。
バレシアはまだ近く、作戦が可能であるとされた。
しかし首都は彼方であった。
無論、直線距離を巡航速度で飛行するのであれば可能であった。
しかし共和国の追撃が確実に来る状況を考えれば、ほぼ全工程を最高速度近い速度で飛ぶ事が必須であった。
加えて回避運動も行わねばならないのも明白であり、シュトルヒの航続距離では及ばぬものであった。
翼下に増槽を付ける案も出されたが、これは大きな空気抵抗を生むから速力の低下と運動性の多大な低下を招く為、航続距離以前の問題であった。
様々な可能性が検討されたが、首都への空輸は不可能であるとの結論が出されるに至った。

しかし首都へのシュトルヒ輸送は必須であった。
いまやいつ首都が瓦礫と化し、ゼネバス皇帝が囚われの身となるか分からなかった。
この状況の中、ついに奇想天外な案が立案され、首都へのシュトルヒ輸送作戦が決行される事となった。

それはシンカーを使用した、ウラニスク・ゼネバス帝国首都間の危険な潜水艦輸送作戦であった。
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