帝都防衛航空隊_9

これの続きです。

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頭上を共和国水上艦隊が動く間、息を殺して海底に潜んだ。
艦隊が通り過てからたっぷり30分は待った。
一時間半の潜行とすれば、いつもなら酸素濃度の低下を感じ始める頃であったが、さすが今回は十分な酸素を積んでおり不便は感じなかった。
ただ深海に潜む間はとにかく暑く、分厚い軍服に汗がたっぷりと染み込んで非常に不快であった。

安全を確認した後に浮上し、水面に出る。
暑さに耐えかねてコックピットハッチを開けると、一気に夜の冷え込んだ空気が入ってきて、肌を心地よく冷やしてくれる。
次の瞬間、一気に冷えた汗に思わず震える。
私は海軍時代からこの瞬間が好きであり、その事を思い出した。

あの頃はまだ戦はこれほど激化していなかった。
せいぜいフロレシオスやアクアドンを相手にしていたし、散発的な戦いが稀に起こる程度だった。
いつしかゾイドは高性能化・大型化し、また航空ゾイドが本格参入した。
使用する武器もホーミング魚雷はじめ新機軸の高性能なものが多数誕生し、それに伴って大規模な部隊同士の戦いの回数も劇的に増えた。

一瞬の回想の後に、私はコックピットハッチを静かに閉じ、シンカーを進ませた。
潜行ではなく水上航行であった。
無論、共和国支配域であり、最大限に警戒すべき区域であった。
出来る事なら潜行して進みたいところであったが、しかしここからはこの作戦で最も危険な水域・マンクス海峡に差し掛かる。
海峡は狭く浅い。
水上航行でも座礁の危険が常にまとう。
いわんや潜行など出来よう筈も無かった。

月の無い暗闇を、座礁への恐怖を感じながらひたすらに進む。
日の出より前、すなわち周囲が暗闇に包まれている間に海峡を越えねばならぬ困難であった。
この海域はいまだ経験の無いものであった。
しかし海軍時代を思い出し、わずかな波の感触とシンカー自身の勘を頼って進めた。
速度は10ノットも出ていないが、これでも浅瀬の航行としては早すぎる程であった。

飛べばすぐに超えられる距離であった。
しかしそれをすると巨大なエンジン音が周囲に響き渡りエンジンノズルから漏れる光は暗闇を明々と照らす、論外であった。
水上航行は遅く、暗闇と相まって少しも進んでいない気がする辛いものであった。
その割に残り時間は確実に減ってゆき、焦る気持ちを抑える事に苦労した。

これは後から聞いた事であるが、この頃、囮艦隊は目論見通り共和国艦隊を見事に釣り上げ、その役目を果敢に果たしていた。
しかも不沈処理を施した輸送船は見事に期待通りの能力を発揮し、いくら魚雷を受けても沈むそぶりを見せぬタフさで共和国を大いに慌てさせたという事である。
ついにバリゲーターだけでは沈める事を断念した共和国艦隊は、ウルトラザウルスをも引っ張り出してきた。
さしもの不沈輸送船もウルトラザウルスのキャノン砲の斉射を受けてはバラバラに飛び散り、ここに囮艦隊は壊滅した。
しかし囮艦隊のシンカー部隊もよく奮戦し、共和国艦隊のバリゲーター6機を撃沈し、また輸送船が沈んだ後はウルトラザウルスの艦載機・プテラスの追撃をよく振り切り、10機中7機が無事ウラニスクまで戻ったという事である。
ともかく、囮艦隊は見事にその役目を果たしていた。

私のシンカーは3時間ほど危険な水域を航行し、ようやく海峡を脱した。
時刻は4時半であり、際どいタイミングであったが何とか私は危険な海峡に勝利したのであった。

海峡を越えると海底はぐんと深くなる。
辺りはわずかながら白み始めており、間も無く差し込む朝日と共に急激に明るくなるだろうと思われた。
私は急いで潜行の用意をした。
しかしその時、ぎょっとする位近い位置にフロレシオスの長い首があるのが見えた。

周囲はまだ、白み始めたといっても暗く、注意深く見ないと気付かない。
幸いまだ見つかっていないようだったが、その長い首はせわしなく周囲を見回している。
急いで潜行を開始したが、急潜行では音を立てフロレシオスに気付かれると思われた為、低音モードでゆっくりと潜行する事を選んだ。
コックピットからコンテナのバラストタンクを操作し、ゆっくりと沈めてゆく。
それが完了してから、私は焦る気持ちを抑えながらシンカーをゆっくりと潜行に移らせた。

音も無く徐々に水の中へ消えていったが、ほとんど潜行が完了した頃、ついにフロレシオスがこちらを捉えた。
長い首の先がこちらを凝視し、たちまちにこちらへ急行してくる。
見つかったと判断した途端、急潜行モードへ切り替え一気に潜行した。
海面が一気に泡立ち激しい音も立つ。
もはやこちらの存在が隠せるはずも無く、ただただ急いで深く潜った。

頭上でボンという大きな音が連続して聞こえてきたが、これは間違いなく対潜兵器の発射音であった。
しかも悪い事に爆雷ではなく、新型のヘッジホッグと呼ばれる多弾散布型の兵器であった。
ヘッジホッグは、大質量大威力の弾を一発投下する従来の爆雷とは全く違い、小型の弾を一気に多数投下する事を特徴としている。
その内のどれか一つでも目標を捕らえれば、投下した全弾が一気に爆発するという仕組みである。
単発での威力こそ低いが、こと命中率という意味では悪魔のような対潜兵器であった。

激しい爆発が機体のすぐ傍で起こり、それは直撃ではなかったが、凄まじい水圧としてシンカーを襲った。
多数の弾が機体周辺で一気に爆発し、他方向からシンカーにかかる水圧は、帝国伝統の分厚い装甲にさえ悲鳴を挙げさせた。
衝撃でシンカーの装甲の一部がひしゃげ、溶接の継ぎ目にヒビが入る。
コックピットのモニターはアラートを告げ、海水が浸入している事を告げ始めた。
直ちに隔壁を閉じ海水の浸入を食い止めたが、他の場所もいつ破られてもおかしくなかった。

幸いだったのは共和国の増援が来なかった事で、これはやはり共和国艦隊が囮艦隊に喰いついた恩恵であった。
増援が来ない事を確信した私は意を決し、フロレシオスと戦う決意をした。
機体の一部は損傷を受けているとはいえ、今ならまだやれるという判断であった。

コンテナの牽引ケーブルを切り離し、私はシンカーを思い切り進ませた。
身軽になったシンカーは素晴らしい機動性を発揮し、いまだヘッジホッグの降り続ける地帯を抜け、そのまま海面への上昇を始めた。
一気に空中に飛び出すと、潜っていたのは一瞬であったのに、空はずいぶん明るくなっていた。
そのおかげでフロレシオスが驚きこちらを見上げるのがよく見えた。
私は必殺のビームをフロレシオスに叩き込んだ。

フロレシオスは前線に出ているのが信じがたい程に、全身むき出しのメカが露出しており、装甲らしい装甲が皆無であった。
最もそれはフロレシオスだけの特徴ではなく、ゴドスより前の共和国ゾイド全てに共通する奇妙な特徴であった。
シンカーのビーム連射を受けて耐えられる筈も無く、たちまちにぐったりと首をうな垂れた。
私は念の為に魚雷を撃ち込んで完全に沈めた後、再びシンカーを海に潜らせた。

海底でコンテナを探すと、幸いにも無傷であった。
私は酸素ボンベを背負って機外に出て、シンカーとコンテナを繋ぐケーブルを再び固定した。
コンテナは無傷と対照的に、シンカーは目で確認出来る程に損傷していた。
その装甲はひしゃげて継ぎ目が広がっており、ヘッジホッグの威力を物語っていた。
先ほど海水が浸入したのはちょうど格納庫であった。
浸水にも拘らず機体に不具合が出なかったのはこの為であった。
しかし中身の設計図面の安否は知れず、私はとてつもない不安にかられた。
ただ、海水に濡れた程度でダメになるようなものでは無い筈と信じ、進む他は無かった。

30分ほどでケーブルを繋ぐ作業は終わり、私は再び機内に戻った。
海面は既に明るくなっていた。
私は先ほどの事もあり、共和国哨戒を避ける為、出来るだけ潜行しながら航行する事に決めた。
残り酸素はあと8時間分、いまだ帝国首都周辺の海域ははるか先であった。
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