秘めたる記録 -STORCH-

幾多の戦場を潜り抜けてきたが、真赤な鳥、シュトルヒは思い出深い。
この機は、出会いも戦いも、全て特別なものばかりだった。


秘めたる記録 -STORCH-


その日はうだるように暑い日だった。
残暑という言葉ではとても納得できない、真夏が戻ってきたような暑苦しい日だった。
午後の訓練の合間、滑走路脇の木陰に倒れこんだ。
さっきまで激しい機動を繰り返していた疲れは酷い。そこにこの暑さ。
「いいかげん沈めよ…」
燃え盛る太陽を苦々しく見た。

俺と入れ替わりの奴らが、訓練に入ってゆくのが見えた。
さっきまで俺が乗っていたシンカーに乗り、滑走路を走り始めた。
目の前を、ジェットエンジンの激しくも熱い風を起こしながらシンカーが抜けていった。
「あいつにも休憩時間くらいやったらいいのにな…」
ようやく離陸したシンカーが上昇に入っている。
それを見て俺はつぶやいた。

プテラスは強敵だった。速力も運動性も限界高度も、全て桁違いだった。
シンカーが勝るのは、防御力とロケットブースターを使用したときの瞬間的な加速力くらいだった。
それでも戦う事は必須。機体性能の差を何とか克服すべく、戦術の研究と技量の向上に務めた。
だが俺たちが今ひとつ乗り気になれなかったのは、やはりシンカーでは勝てない事が分かりきっていたからだ。

制空権は必須だ。
それでも、海側の部隊は機体特性を活かしよく抗した。
だが内陸の水の無いところで戦う部隊は悲惨だった。
そして近年は、敵に新型巨大水陸両用ゾイドが登場し、海側のシンカー部隊をも、危機におとしめた。

心なしか、上空で訓練するシンカーも、今ひとつ動きにキレが無いように思えた。
休憩時間はあと20分。
俺は少し寝ておこうと、目を閉じた。
だがその瞬間、俺は違和感を感じて飛び起きた。
「異音………」

上空で訓練するシンカーの轟音。
それとは別に、飛行する何かの音が聞こえた。
「高度6000、2機……」
ある程度の期間を経たパイロットなら、上空で飛ぶ航空機の高度や機数、サイズなど聞き分ける事が出来るようになる。

「レーダーはどうなっている!?」
目の前を数人の兵が走りぬけた。
やはり俺の聞き間違いではない…!
敵か? 味方か?

その音はジェットエンジンやロケットエンジンのようなうるさい音ではなかった。
マグネッサーシステムを使用した特有の優雅な音だ。
「プテラスか?」
いや、しかしプテラスの音とは少し違う感じがした。

俺はさっき走っていった兵たち…、滑走路の端で音の方を見上げていた…、と合流した。
「上空のシンカー、感あるか?」 シンカーと交信している。
「現在探査中……、あった!感あり。小型2機、高度6000でこちらに接近中」
不測の事態に備え、訓練とはいえ模擬弾ではなく実弾が装填されている。
緊張が走った。
だが同時に、基地中にスピーカーの音が鳴り響いた。
「基地総員に告ぐ。現在、友軍機2が当基地に接近中。繰り返す、友軍機2が当基地に接近中。通信・誘導員を除く総員は滑走路に整列し出迎えよ。訓練中のシンカーは友軍機に接近し基地までエスコートせよ」

友軍!?
マグネッサーシステムだけで飛ぶ新型友軍機がこの基地に来るというのか!?

戦況が差し迫る中、中央は「状況を一変させる画期的新型機開発中」を盛んに宣伝していた。
誰しもがそれを想像し、しかし半ば諦めたような、しかしどこかで捨てきれない期待を持ち続けて…、そんな気持ちでいた。
それが今、目の前に来ていた。

「来たぞ!」
思わず叫ぶ。
先導するシンカーの後ろに、スマートなフォルムの真赤な鳥型ゾイドが見えた。
先に着陸したのはシンカー。ランディングギアを出し、滑走路に舞い降てくる。
長い滑走距離を使い、シンカーはようやく停止した。
続けて着陸する新型機。
俺は、いや基地の誰もが、その着陸姿に度肝を抜かれた。
ゆっくりと降下ししてきた新型機は、フワリという言葉が似合う優雅な羽ばたきをしたかと思うと、そのまま着陸を完了した。
「スゲェ…、垂直に着陸しちまったぞ」
「離陸も滑走なしで出来るのか?」
ザワついた声が聞こえた。
2機目も優雅に舞い降りるに至り、出迎えた基地隊員たちは、誰からとも無く一斉に拍手を送ったのだった。

EMZ-028シュトルヒ。
通追うが戦況を一変させると謳った新鋭機。
その最初の出会いは衝撃的で、今も鮮明に覚えている。

シュトルヒは帝国軍が始めて完成させた超音速戦闘機である。
言うまでも無く対プテラス用であり、M2.1の快速を誇り、ビーム砲、一撃必殺のSAMバードミサイルの強力武装を備えていた。
カタログスペック上はプテラスと互角、あるいは優勢に戦えるはずであった。
しかしシュトルヒの不幸は、完成に時間がかかりすぎた事であろう。

本来、もっと早期に登場し、制空権を奪い返す算であった。
だが超音速機であるとかマグネッサーウイングであるとか、あまりにも初めて尽くしの機体であった。
開発はずれ込み、その間、帝国領土は奪われていった。
実のところ…、戦場に登場したのはZAC2039年であるが、この時は未完成といえるものであった。
最低でもあと1年は、成熟期間が必要であった。
機体の設計には、量産機としてはいかにも無理のある箇所が多かった。
あの日、突然基地に飛来した2機のシュトルヒも、実は首都に行く予定だったが途中でトラブルが発生し、急遽近場の基地に降りただけというものだった。

機械的なトラブルは多く、操縦には何かと制限が多く、また複雑であった。
本来、これらは成熟期間を経て解決されるものであった。
そうしてから量産し戦場に出すべきであった。
だが不幸な事に戦況はそれを許さず、そのまま未成熟な状態で量産し戦わせる他なかったのである。

もしこの機体を使いこなすなら、それこそ機体特性や操縦技術を、たっぷりと時間をかけて叩き込み、そうしてから戦場に出るべきであった。
無論、そんな時間などある筈はなく、最低限の訓練のみで多くのパイロットが飛び立ち、そして散っていった。

だがシュトルヒの秘めた能力に惚れ込み、熱狂的に打ち込んだパイロットも居た。
それら熱狂的なシュトルヒ乗りは、圧倒的物量で迫る共和国軍に果敢に挑み、鮮やかな風穴を開けて見せた。
また親衛隊のエースは、首都陥落時に皇帝を逃がす大活躍をみせた。

暗黒大陸への亡命後は、シュトルヒに成熟期間を与える絶好の期間であった。
しかし暗黒大陸特有のドラゴン型野生体を譲り受けた開発部は、これを使用すればプテラスと互角どころか圧倒するゾイドを開発できる可能性を感じ、それに注力する決断を下した。
ついにシュトルヒは、本格的な改良を施される事がなく、その秘めた真の実力を開放する事がないまま二線級機になったのである。

傑作機とは言いがたい、何とも不運な機体であろう。だがその未完成の名機ゆえに、熱狂的なマニアを生んだのも確かであった。
気難しい機体を乗りこなし、自分の手足のように扱い空を駆る。それに喜びを感じ、そしてそれを誇った者達である。

真赤な鳥、シュトルヒは、誇り高いゾイドであった。
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